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構成 前書き
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コラム集 後書き

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桃井富範個人のページ

 先程筆者は男性の戦略と女性の戦略の章にて、人間に(特に男性に)プログラミングされた生殖能力の特徴のために発生する争いをホッブス氏の名言より「万人の万人に対する闘争」と表現しました。
 そしてこの「万人の万人に対する闘争」は男性にとっても女性にとってもメリットが無く、結局は安定した戦略を選ぶようになると解説を行いました。
  この際説明した安定した戦略とは、ゲーム理論の用語で進化的に安定した戦略(Evolutionarily Stable Strategy)と言い、先の章で開設した男性と女性の生殖を巡る場合では、男性が複数の女性との間に子孫を残す能力がある為に発生する男性同士の争いで生じた社会的不安定を、男性一人と女性一人が互いに結び付き、他の異性との交渉を行わない代わりに社会で認知され、子供の出産や子育てを安全に行う『結婚』という安定戦略で解消しています。
  このような安定戦略で重要な概念となるのがコミットメントであり、これは結婚などの安定戦略を行う人々がコミュニティ内で行う有形無形の契約関係を表します。
 この安定戦略には人類の男女間の間で取り交わされる最もポピュラーな安定戦略である「結婚」以外にも様々なバリエーションがあります。それを、結婚も含めて詳しく説明しましょう。

私達お付き合いしています―彼氏彼女の安定戦略

 「俺達今付き合ってるんだ〜」、「私彼氏と別れた…」、こういう言葉恋愛シーンでしばしば耳にする言葉です。実はこの「付き合っている」という男性と女性の関係は1つの安定戦略なんです。それでは、今から「付き合う」という男性と女性の安定戦略を詳しく説明するとしましょう。
 「付き合う」という関係は男女相互の排他的関係を表します。これは男性あるいは女性の「付き合おう」等の申し出とそれに対する異性の了承「うん、わかった」等の返事にて成り立ちます。それは、「別れる」(コミットメントの解消)あるいは「結婚する」(より相互的な親族等を含めたコミットメント)迄行われます。文書等にての正式契約は無く、お互いが付き合っていると認識していれば、二人は既に付き合っていることになり、それを家族・友人等に「私達付き合っているの」と言えば、周囲にもその「付き合い」を認識させられます。

  このように何らかの方法で自分の情報を他者に開示することをゲーム理論ではシグナリングと言います。シグナリングについてはコラム『シグナリングバトル』で詳しく説明を行っています。

メリットとデメリット

 「付き合う」という安定戦略のメリットは、何と言っても「結婚」程の拘束力や有効性がないにしろ、男性と女性との間に排他的な相互コミットメントを築けるという点です。この相互コミットメントはデートやキスから、場合によってはSEX迄の行為を行っている、あるいは行う意欲があるという意味合いがあります。
 法律の拘束力はありませんが、もし「付き合っている」という関係を承知の上でその付き合っている異性と交際したりしたならば、「人のオトコ(オンナ)を奪おうとしたヤツ」として友人等のコミュニティから冷遇されると言う倫理制裁を受けます。
 男性と女性は時間をかけて、お互いの気質や性格、果てはSEXの相性も含めて互いを熟知し、結婚をするに値するかどうかチェックを行います(ちなみに男性は単なるSEX、女性は金が目当ての場合がありますので、注意してください。そういう場合は「ただ付き合っているだけ」という言葉を男性女性共によく話します…。)
 一方デメリットとしては、法律の拘束力が無く、倫理面での拘束力も少ないため、結婚とは異なり生殖行動は出来ません。生殖行動を行うには結婚というプロセスを経る必要があります(ちなみに、結婚してから生殖行為を行うのとは異なり、付き合っているうちに行った生殖行為で子供が出来る、いわゆる『できちゃった婚』と言う結婚へのプロセスも存在します)。  また、さらに彼氏、彼女よりもさらに魅力のある異性や、更に好条件の付き合いがあれば、結婚とは異なり、すぐに別れてしまってもかまわない為にやはり依然として不安定なままです。 さらに「付き合う」という行為もそれをあまりに繰り返すと、異性から結婚してもすぐに浮気するのではないかと危惧されてしまうのです。人間は当然ながら商品ではありませんが、しかしながら中古より新品のほうがいいという心理が働いてしまいます。同性からも、恋に落ちる経験は誰しもありますから、1回や2回は黙認されますが、それがあまりに多いと単なる金目当てあるいはSEX目当ての確信犯としてスパイト(制裁・いやがらせ)行動の対象になってしまいます。
 一度の「付き合い」にて最高のパートナーと巡り合うのが理想ですが、なかなか難しいのが人の生です。

結婚―崩れかかった人類普遍の安定戦略

 そんな現実の「付き合い」の中で人生を共に生きていこうと決心した2人が行うコミットメントを「結婚」と言います。「結婚」というコミットメントでは、所属する国に文書にて有形の契約を行い、キリスト教や神教等の教会・寺院等にて莫大な費用を費やして、高価な指輪を嵌めてシグナリングを行い、宗教面・倫理面での保護と束縛を受けます(キリスト教のカトリックでは離婚が禁止されています)。

メリットとデメリット

 結婚のメリットは正々堂々と安心して生殖活動、そして子育てを行えるという点にあります。結婚している男性女性は法律や宗教倫理に保護され、結婚している男性女性を手に入れようとする人間は何らかの形にて制裁を加えられ、同性から相手にされなくなります。現在世界で普遍的に存在する生殖と子育てを正式に許された唯一の方法です。
 また、結婚の誓いはその女性のみとの交際を行い、それ以外の女性とは恋愛やSEXを行わないとの誓いの為、それを守っている限りは信用され、企業組織にて出世しやすくなるというメリットがあります。
 一方デメリットは、一度結婚してしまうと相手をもう選んだり変えたりすることができなくなってしまうと言う点です。中には不倫や浮気と言って、結婚しているのに妻・夫以外の女性とSEXを行ったり、隠し子を作ってしまう人間もいますが、結局は出世が出来ない、同性・異性から相手にされなくなる等の制裁や嫌がらせを受けてしまいます。
 また、結婚を解消する離婚という制度も一応は存在しますが、この権利を行使すると、スパイト行為の対象となります。当然ながら出世は望むべくもありません。子供を既に産んでいるならばなおさらです。
 子孫を残すという生命としての目標も果たしたために、完全な成人とみなされ、一切の甘えも許されません。子育てや教育資金の労働の為に人生の労力を注ぎ込まなければならなくなるケースが殆どです。
 現代では社会の凄まじい進歩の為、結婚しても子供を産まない、永遠の誓いの筈の結婚に於いて離婚が普通となりつつある等の社会問題が発生し、結婚そのものの制度も危ぶまれています。

ポルノにまつわる職業―子孫繁栄よりSEXの快楽追求安定戦略

 「結婚」して、子供を産む…生命としての自己目標は果たされますが、子供の養育費のために人生を費やし、それ以外の異性との生殖の可能性も無くなってしまう。果たしてこれで人生をエンジョイできるのか、これが人生だと言えるのだろうか、と考えたあなた、こんな人生はどうでしょう。
 アダルトビデオのAV男優・女優や歓楽街のソープやヘルスなどの風俗の職業に就いてしまうのです。アダルトビデオであれば欲求不満な世の男性・女性の自慰に貢献し、ソープやヘルスには世の性本能を抑えきれない男性諸君が異性を求めてやって来るために立派な商売となります。実際古来より売春は人類最古の職業の1つです。
 当然ながらこういう職業についていればSEXの機会は一般に生活している人と比べ物にならないぐらい増えるでしょう。快楽を追求する、あるいは金銭面で肉体を売らざるを得ない男性・女性は幾らでもいるからです。当然そんな人たちの社会で生きていればSEXなんて挨拶ぐらいの感覚でしょう。
 人間は生命として存続する為の仕掛けとして、SEXが物凄い気持ちのいいように作られています。そのSEXを沢山の人間と楽しむなんて(現在は避妊技術が発展している為にSEXを行っても子供を作らなくても済むんです)最高ではありませんか!
 しかし、生殖を行い、子孫を残していくためには相応しくありません。何故なら、一般社会とは信用、信頼で成り立っているからです。いいオンナ(オトコ)とたくさんSEXしたくてたまらない、みんなそうでしょう。しかし、それを我慢して社会生活を営んでいるのです。そうしなければ、争いとなり、子供をちゃんと産んで育てられないからです。
 こういうポルノにまつわる職業をしていると認知された人間は(今はメディアが発達しているため、あらゆる情報の伝達が早く、さらに悪事千里を走るといいます)、異性からは「必ず浮気する人間」と、そして同性からは「自分のパートナーを寝取ろうとする人間」として、つまはじきにされてしまいます。当然その影響は罪のない子供に迄およぶでしょう。その結果著しく結婚相手としての評価を下げ(一般的に付き合って結婚というプロセスを経る人たちからは結婚相手とみなされないでしょう)、子供を育てるのすら困難となります。
 一生生殖能力の持つ男性ならまだましです。生殖能力を人生の途中で失う女性は、その途端にSEXの対象としての価値すら失い、悲惨な人生を送る場合が殆どです。
 快楽を追求した結果、子孫繁栄が難しくなり、信用も失ってしまうのです。

聖職に就き子供を産まない―負けるが勝ちの聖者戦略安定戦略

 先に述べた安定戦略を読んで、異性への欲求が争いや避けられぬ義務、労働、不幸を呼び覚ますと絶望したあなた、とっておきの安定戦略があります。世に言う聖職(或いは神職)に就いてしまうのです。例えば教会の神父や牧師の職に就くのです。
 こういう職に就けば、欲望にまみれたマネーゲームや異性を巡るいざこざに心身を擦り減らす必要が無くなります。
 何せ、宗教の世界では、自分の欲求を抑えれば抑えるほど尊敬され、出世できてしまうのです。実際、キリスト教に於いては、生涯独身の人間のほうが結婚した人間よりも出世出来ます。
 しかし、人間は、異性を求めるように作られています。発達した学問や高度な知性や精神力を用いて自らの生殖欲求を抑え続ける行為は人間にとって有害ですらあります。
 さらに、聖者安定戦略を選んだあなたは子供を産んでいる夫婦(先程もいいましたが、彼らは彼らで必ずしも幸せではありません)を横目に一生羨望と嫉妬と後悔を噛み締めながら生きていかねばなりません。
 これも、当然ながら一生生殖の行える男性なら一抹の希望を持ちながら生きていけます。人生半ばにて生殖能力を失う女性は悲惨です。後悔と未練のあまり眠れない夜もあるでしょう。 
 だからといって、生殖行為を達成してしまうと今度はなまくら坊主の烙印を押され、出世できなくなります。

 尊敬はされますが、悲惨な人生です。

独身貴族

 世俗に生きながら独身を貫くというのも安定戦略の一つでしょう。
 独身でいることのメリットはまず経済面です。
 家庭を持って子供を扶養する為にかかる費用は子供ひとりにつき数千万円から時には一億円とも言われています。
  世の大抵の結婚した男女はこの養育費を手に入れる為に必死になって仕事をし、子供が自立する頃には人生のピークを過ぎ、既に初老を迎えているケースが殆どです。
  独身を貫けば子供の養育費用を自分の好きなことに使えます。
  今は娯楽が発達していますから、独身でいたとしてもある程度お金さえあれば退屈することはまずありませんし、性欲についても倫理上の問題や世間体が気にならなければ性風俗のサービスで十分に紛らわすことが出来ます。
  享楽に溺れながら暮らしても構いませんし、自分のライフスタイルを確立することも容易です。
 結婚に伴う種々の束縛とも無縁でいられます。
 一方のデメリットは前述した聖職について子供を産まないという安定戦略と同様、自らの子孫を残すことができないということです。
  独身の人生がいくら楽しくても子孫を残すという生命の目標が達成できないのは非常につらいことです。
  それに独身でいる人は社会での信頼を得るのが難しく、結婚をしている人に比べて出世が遅れてしまう傾向もあります。
  ちなみに終身雇用制が崩壊し、仕事をしても給与が上がらず保障も受けられないワーキングプアが発生している現代日本では経済上の理由の為に結婚したくてもできない独身男女が増加しており、少子化の原因の一つとなっています。

安定戦略番外編

 一応安定戦略として、番外編を掲載します。はっきり言って今から述べる安定戦略は全くオススメ出来ませんが、古代より連綿と続いているという事実も間違いではありません。

同性愛者になる 

 異性との交際は、不幸の原因になるから御免だが、それでも人間同士の愛は欲しい。生行為も行いたい。そんなあなたはもういっそ同性愛者になってみてはいかかでしょう。

 古代ギリシアより同性愛は伝統が存在し、男娼なる言葉すら存在します。文学分野ではランボーや三島由紀夫、織田信長をはじめ、主だった戦国武将たちも堂々と同性愛を嗜んでいたといいます。
 世の男性たちからも、ゲイが2人いれば、両刀使いを除いて異性奪取の競争相手が2人減るのですから、これは歓迎されます。
 しかし、エイズ等の病気に罹りやすく、女性と同じく拒否している人間に迫ると犯罪行為となりますから注意してください。

自殺する

 自殺という安定戦略も古代より多くの人間に採用された戦略でした。いざとなったら、世の中からいっそ自発的にいなくなってしまうのです。
 残念ではありますが、昔より様々な理由、そして様々な方法で沢山の人たちが自殺という方法で世を去っており、今の日本でも年間に3万人以上に達さんとする人々が(1日に80人以上、およそ4千人に一人の確率です)自ら死を選んでいます。
  この自殺という問題は、本一冊どころか、辞典が作成できてしまいそうなテーマですが、経済上の問題などによる死を選ばざるをえない自殺は社会セーフティーネットの補充で犠牲者を減らすことができるでしょうし、それ以外の要因で自殺する人にとっても、忠告しておくと人生なんてものは宇宙が出来てからの歴史からみれば、刹那の時間です。
 何も自ら命を絶つ必要が果たして存在するのか疑問です。

安定戦略だって変化する。

 筆者は今章で安定戦略についての説明を行いましたが、全員が全員という訳でもないでしょうが、この安定戦略も人によっては様々な変化が存在するようです。
 結婚した後に離婚して独身となるというパターンなどがその一つでしょう。
  性格の不一致や家庭内暴力などの問題、結婚はしてみたけど独身の方が気楽だったとすぐ離婚してしまうケースもありますが、最近では立派に子を育て、子供たちが自立した夫婦の間での離婚が増えており、熟年離婚といわれています。
  確かに結婚生活には子供を養育するために行うという要素が少なからず存在していますし、夫婦生活に愉しみや安心感が存在しないのであれば、子供の自立後に離婚してしまうのは考えようではとても合理的ともいえます。
  お子さんにとっては多少好ましくない影響を与えてしまう可能性はありますが……。
 一方で例えば売春を行っていた人物が宗教に目覚め、自らの人生を一変させるという例もあります。
  有名な例でいえば、聖書にも登場するマグダラのマリアで、彼女は売春婦だったと言われており、キリスト教の祖であるイエスキリストと出会ってその教団に加わり、現在では聖女として信仰の対象にさえなっています。
  このような俗世での生活から宗教への帰依を行うことは宗教用語で回心と呼ばれています。
 一方でその逆の例も存在します。
  それは、フランスの著述家バタイユなどに見られる例で、彼は最初は敬虔なクリスチャンでしたが、その後ニーチェに影響を受けて無神論者となり、破天荒な恋愛生活を送りながら、『エロティシズム』等のエロスを追求した作品を世に残しました。
 このように、安定戦略という点をとっても十人十色という言葉の通り人の数だけ人生模様があります。
  そして、だからこそ人生は面白いのだともいえます。                  

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