AWDLP210-002
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桃井富範個人のページ

銀山心中

 弓 筆人

「ここでなら死ねる」
そう思った。

私と彼女は違っていた。
生まれ育った環境も今ある立場も何もかもが・・・・・・。
だから私達は出逢うや否や憎しみあったが同時に愛しあった。
互い傷ついた。
そして傷つけあうことさえ許されなくなった。
せめて・・・・・・。
銀山温泉で死のう、二人決めた。
最後の旅情を愉しみ、睡るように安らかに死ぬことの出来る薬を互い服ませる。
『君を束縛してすまなかった』
睡りにつきながら遠のく意識で別れを告げた。
彼女への薬をただの朧臥みの錠剤に変えておいたのだ。

日が昇り目が覚めて驚愕する。
死んでいないのだ。
『まさか!?』
彼女を殺してしまったのかと慌てて生死を確かめる。

彼女は涙を流していた。

私も泣いた。

私達が共有した感覚は悠久の時の流れに比べると余りにも頼りなかったが、しかし二人が死までの時を緩やかに慰めあうには十分だった。
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